2030年秋頃の開業を目標とする大阪IR計画に向けて、カジノホテル内レストランの内装デザインをどう設計すべきか。マカオやシンガポール、ラスベガスの統合型リゾート施設と肩を並べる空間を日本で実現するには、何を押さえておくべきなのか。
IR施設の設計・企画に携わる方であれば、世界水準のラグジュアリー空間を創出しながら、日本らしさも表現したいという課題に直面しているのではないでしょうか。カジノホテルのレストランは単なる飲食スペースではなく、施設全体のブランドイメージを左右する重要な空間です。
本記事では、世界のカジノホテルで採用されているレストラン内装デザインの手法を7つ紹介し、それぞれの費用対効果やメンテナンス性を比較します。大阪IR施設の設計段階で検討すべき空間演出の選択肢を、海外事例とともに解説していきます。
カジノホテルのレストラン内装デザインが収益に与える影響

カジノホテルにおけるレストランの内装デザインは、単なる装飾の問題ではありません。IR施設全体の収益構造に直結する戦略的な投資領域です。
統合型リゾート施設では、カジノフロアでの滞在時間を最大化することが収益の鍵を握ります。しかし、ポーカーやバカラといったゲーミングだけでは顧客を長時間引き留めることはできません。高級ホテル内のレストランやバー、ラウンジといった飲食施設が、顧客の滞在時間延長と消費単価向上に大きく貢献しています。VIPルームを利用するハイローラーにとって、ゲームの合間に利用できる質の高い飲食空間の存在は、施設選択の重要な判断基準となります。
IR施設運営の現場では、内装デザインに積極的に投資したレストランは、そうでない施設と比べて顧客単価が高くなる傾向があることが経験的に知られています。また、宿泊施設の選択においてレストランの雰囲気や体験価値が重視される傾向も見られます。カジノフロアに隣接するラウンジやバーの内装が洗練されているほど、顧客の施設内回遊が活性化し、結果としてゲーミング収益にも好影響を与えると考えられています。
日本初のIR施設となる大阪IRでは、マカオやシンガポールなどアジアの既存IR施設との競争環境を念頭に置いた施設計画が求められます。レストラン空間のデザインクオリティは、世界中から訪れるハイローラーやVIP顧客の評価に直結する要素です。設計段階から戦略的に内装デザインを検討することが、施設全体の競争力を左右します。カジノホテルの建築においては、レストランを単なる付帯施設ではなく、収益を生み出す戦略的空間として位置づけることが重要です。
世界のカジノホテルに学ぶレストラン内装デザイン7つの手法

カジノホテルのレストラン内装デザインには、世界共通で採用されている定番の手法から、近年注目を集めている革新的なアプローチまで、さまざまな選択肢があります。ここでは、マカオ、シンガポール、ラスベガスの主要IR施設で実際に採用されている7つの手法を紹介します。
照明デザイン(間接照明・シャンデリア・LED演出)
照明は、レストラン空間の雰囲気を決定づける最も重要な要素の一つです。カジノホテルのレストランでは、時間帯や用途に応じて照明を変化させる演出が一般的です。特にバーカウンター周辺やラウンジエリアでは、照明による空間演出が顧客の滞在時間に大きく影響します。
ラスベガスのベラージオホテルでは、2024年8月まで営業していたレストラン「ピカソ」において、絵画を際立たせるスポットライトと、食事空間を包み込む間接照明を組み合わせた照明設計が採用されていました。天井に設置された大型シャンデリアがフォーカルポイントとなり、空間全体にラグジュアリーな印象を与えていたことで知られています。このように、部屋ごとに異なる照明シーンを設定することで、カジュアルダイニングからファインダイニングまで、多様な利用シーンに対応する設計が可能です。
照明デザインの利点は、比較的低コストで空間の印象を大きく変えられる点にあります。LED技術の進化により、色温度や明るさをプログラム制御することも可能になり、朝食・ランチ・ディナーで異なる雰囲気を演出できます。
一方で、照明だけでは空間の差別化に限界があるのも事実です。多くのカジノホテルが同様の照明手法を採用しているため、照明単体での差別化効果は薄れつつあります。
天井・空間設計(折り上げ天井・高天井・装飾天井)
天井デザインは、レストラン空間のスケール感と格調を決定づけます。カジノホテルのレストランでは、一般的な商業施設よりも高い天井高を確保し、開放感とラグジュアリー感を両立させる設計が主流です。
シンガポールのマリーナベイサンズでは、レストラン「CUT」において、高い天井高を活かし、装飾モールディングを施した折り上げ天井を採用しています。この設計により、ニューヨークの高級ステーキハウスを彷彿とさせる重厚な空間が実現されています。
天井設計は建築段階で決定する必要があるため、後からの変更が難しい点に注意が必要です。また、天井高を確保することで空調効率が低下するため、ランニングコストとのバランスを検討する必要があります。
壁面装飾・素材選定(大理石・特注パネル・ミラー装飾)
壁面の素材選定は、レストラン空間の質感と高級感を左右します。カジノホテルでは、大理石やオニキス、天然木材といった高級素材を壁面に使用することが一般的です。
マカオのウィンパレスでは、レストランの壁面に特注の金箔パネルと大理石を組み合わせた装飾を採用しています。光を受けて輝く壁面が、空間全体にゴージャスな印象を与えています。
素材選定においては、初期コストだけでなくメンテナンス性も重要な検討要素です。天然大理石は経年変化による風合いの変化がありますが、定期的なメンテナンスが必要です。特注パネルは初期コストが高くなりますが、清掃やメンテナンスが比較的容易という利点があります。
フロア・床材デザイン(高級カーペット・大理石タイル・特注デザイン)
床材は、レストラン空間の印象を足元から支える要素です。カジノホテルのレストランでは、用途に応じて異なる床材を使い分けることが一般的です。
ラスベガスのシーザーズパレスでは、メインダイニングに高級カーペットを敷き詰め、バーカウンター周辺には大理石タイルを採用する設計が見られます。カーペットは音の吸収効果があり、落ち着いた食事空間を演出できます。一方、バーエリアの大理石タイルは清掃が容易で、カクテルのこぼれなどにも対応しやすいという実用的なメリットがあります。
床材選定では、耐久性とメンテナンス頻度のバランスが重要です。24時間営業のカジノホテルでは、床材の摩耗が通常の飲食店より激しくなるため、交換サイクルを考慮した素材選定が必要です。
家具・什器のセレクション
家具と什器は、レストラン空間のデザインコンセプトを具現化する要素です。カジノホテルのレストランでは、オーダーメイドの家具や、著名デザイナーによる特注品を採用することが多くなっています。バーカウンターのスツールからダイニングチェア、ソファ席まで、すべての家具が空間の統一感を左右します。
シンガポールのリゾートワールドセントーサでは、2018年まで営業していたレストラン「Joël Robuchon」において、フランスの家具職人による特注チェアとテーブルが採用されていました。座り心地と美しさを両立させた家具が、ミシュラン三つ星レストランにふさわしい空間を演出していたことで知られています。このように、個室やVIPルームには、より高級な素材を用いた特別仕様の家具を配置し、一般客席との差別化を図る手法は現在も広く採用されています。
家具選定においては、デザイン性だけでなく耐久性と修理対応も重要な検討要素です。カジノホテルの高稼働環境では、家具の傷みが早いため、補修パーツの供給体制や、同等品の継続生産が保証されているかを確認する必要があります。
アート・オブジェの配置
アート作品やオブジェは、レストラン空間に独自性とストーリーを付与する要素です。世界のカジノホテルでは、著名アーティストの作品を常設展示し、空間の文化的価値を高める手法が広く採用されています。
ラスベガスのベラージオホテルでは、2024年に閉店したレストラン「ピカソ」に、かつてパブロ・ピカソの原画が常設展示されていました(所有作品の一部は2021年にオークションで売却されています)。美術館のような空間で食事ができるという体験が、他のレストランとの明確な差別化要因となっていた事例として知られています。
アート作品の導入には、作品の購入費用に加えて、保険料、温湿度管理、セキュリティ対策などのランニングコストが発生します。また、作品によっては撮影禁止などの制約が生じる場合もあり、SNS映えを重視する現代のマーケティング戦略との兼ね合いも検討が必要です。
動的な視覚演出(水・光・映像の融合)
静的な装飾とは異なり、動きのある視覚演出は顧客の視線を引きつけ、空間に生命感を与えます。近年のカジノホテルでは、水や光、映像を組み合わせた動的演出が注目を集めています。
その中でも世界のIR施設で採用が広がっているのが「ウォーターインテリア」と呼ばれる空間装飾です。ウォーターインテリアとは、水と光を組み合わせた空間演出装飾の総称で、代表的なものに「バブルウォール」(アクリルパネル内で気泡が上昇する装飾)や「ウォーターウォール」(壁面を水が流れ落ちる装飾)があります。
マカオやシンガポールの主要IR施設では、エントランスホールやラウンジ、VIPエリアに水と光を組み合わせたウォーターインテリアが導入されている事例が複数見られます。水の動きと照明の組み合わせが、静的な装飾では実現できない視覚的インパクトを生み出しています。
ウォーターインテリアの特徴は、比較的コンパクトなスペースでも強い印象を与えられる点にあります。大理石の壁面や大型アートのような大規模な意匠変更を伴わず、既存空間に後付けで設置できるケースもあります。ただし、給排水・電源・構造、安全性、建築基準法・消防法等の関連法令を満たす設計が前提となります。また、LED照明との組み合わせにより、時間帯やイベントに応じて色彩を変化させる演出も実現できます。
ウォーターインテリアについて詳しく知りたい方は、バブルウォール製品ページもご参照ください。
ラスベガス・マカオ・シンガポールの成功事例

世界のカジノホテルでは、上記の手法を組み合わせてレストラン空間を設計しています。ここでは、特に成功している事例を地域別に紹介します。
ラスベガスでは、ベラージオホテルの「ピカソ」が内装デザインの成功事例として知られていました(2024年8月閉店)。地中海風の内装にピカソの原画を組み合わせ、美術館とレストランを融合させた空間を実現していました。天井にはスペイン風の装飾が施され、窓からはベラージオの噴水ショーを眺めることができました。アート、照明、眺望という複数の要素を組み合わせた総合的な空間設計が、約26年にわたる人気の秘訣でした。
マカオでは、ウィンパレスの「SW Steakhouse」が注目されています。湖に面したロケーションを活かし、屋外テラスと屋内ダイニングをシームレスに接続する設計を採用しています。屋外のパフォーマンスレイク(照明・音楽・噴水を組み合わせた水景ショー)を眺望として取り込み、食事中に水景演出を楽しめる空間設計が特徴です。高級ステーキハウスでありながらエンターテインメント性も兼ね備えた空間として評価されています。
シンガポールでは、マリーナベイサンズの「CÉ LA VI」がルーフトップレストランの成功事例です。57階という立地を活かし、シンガポールの夜景を一望できる開放的な空間を実現しています。インテリアはモダンアジアンテイストで統一され、照明や素材のコントラストを活かした演出が特徴です。眺望と照明演出の組み合わせが、SNS映えする空間として若年層からも支持を集めています。
各手法の費用対効果・メンテナンス性比較

レストラン内装デザインの手法を選定する際には、初期投資だけでなく、ランニングコストやメンテナンス性も重要な判断材料となります。以下に、各手法の特徴を比較します。
| 装飾手法 | 初期費用 | 視覚インパクト | メンテナンス頻度 | 差別化効果 | 施工期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 照明デザイン | 中 | 中 | 低(LED交換程度) | 中 | 短 |
| 天井・空間設計 | 高 | 中〜高 | 低 | 中 | 長(建築段階) |
| 壁面装飾(大理石等) | 高 | 中〜高 | 中(定期研磨等) | 中 | 中〜長 |
| フロア・床材 | 中〜高 | 中 | 高(交換頻度高) | 低〜中 | 中 |
| 家具・什器 | 中〜高 | 中 | 中(補修・交換) | 中 | 短 |
| アート・オブジェ | 高(作品による) | 高 | 低(保険・管理費) | 高 | 短 |
| ウォーターインテリア | 中〜高 | 高 | 中(水質管理等) | 高 | 中 |
ウォーターインテリアは、初期費用は中〜高程度ですが、視覚的インパクトと差別化効果が高いことが特徴です。メンテナンスについては、水質管理やポンプの定期点検が必要です。適切な水質管理・定期点検を前提とし、専門業者によるサポート体制を整えれば、24時間営業のカジノホテルでも安定した運用を行うことができます。
大規模IR施設への導入を検討する場合は、設計段階から専門家に相談することをおすすめします。特にカジノを含むIR施設では、IR整備法およびカジノ管理委員会の規則、建築基準法・消防法等の関連法令を踏まえた計画が不可欠です。設置場所の選定、給排水設備の確保、メンテナンス動線の確保、監視カメラの視認性や避難経路の確保など、安全面と遊技環境への影響を考慮したうえで、初期段階から内装デザインと設備計画を統合的に検討する必要があります。
大阪IR施設で世界水準のレストラン空間を実現するために

2030年秋頃の開業を目標として大阪市此花区夢洲に建設が進められている大阪IR施設は、日本初の本格的な統合型リゾートとなる計画です。同計画は、2023年4月に国からIR区域として認定され、MGM大阪株式会社(MGMリゾーツ・インターナショナルおよびオリックスなどの共同出資)を事業者として推進されています。
初期投資額は約1兆5,130億円規模とされる大型プロジェクトにおいて(2025年9月時点、最終的な投資額は今後の計画変更等により変動する可能性があります)、レストラン空間のデザインは施設全体のブランド価値を左右する重要な要素となります。
大阪IR施設のレストラン内装デザインを検討する際には、以下の3つの視点が重要です。
第一に、マカオやシンガポールとの差別化です。アジアのIR市場では、すでにマカオとシンガポールが確固たる地位を築いています。大阪IRが後発として参入するためには、既存施設の模倣ではなく、日本ならではの価値を提供する空間設計が求められます。日本の伝統工芸や現代アート、テクノロジーを融合させた空間演出が、差別化の鍵となるでしょう。
第二に、インバウンド顧客の期待への対応です。大阪IRを訪れる顧客の多くは、海外からの観光客になることが予想されます。彼らが期待する「日本らしさ」と「世界水準のラグジュアリー」を両立させる空間設計が必要です。
第三に、長期的な運用を見据えた設計です。IR施設は数十年単位で運営されることが想定されます。流行に左右されにくい普遍的なデザインと、時代に応じてアップデートできる柔軟性を両立させる設計が理想的です。
ウォーターインテリアは、これらの要件を満たす選択肢の一つとして検討に値します。水の演出は日本の庭園文化とも親和性が高く、モダンな空間に和のテイストを加える手法として活用できます。また、LED演出との組み合わせにより、季節やイベントに応じた空間の変化も実現可能です。
大規模施設へのウォーターインテリア導入には、設計段階からの専門的な検討が必要です。水景演出に特化したノウハウを持つ正規代理店への相談をおすすめします。ジーエムビー株式会社は、米国ミッドウエストトロピカル社の正規代理店として、海外を含む商業施設やリゾート施設への導入実績があり、水景演出に特化したノウハウを蓄積しています。設計段階からの相談や資料請求については、バブルウォール製品ページからお問い合わせください。
まとめ
カジノホテルのレストラン内装デザインは、施設全体の収益性とブランド価値に直結する戦略的な投資領域です。本記事では、世界のIR施設で採用されている7つの空間演出手法を紹介しました。
照明デザイン、天井・空間設計、壁面装飾、フロア・床材、家具・什器、アート・オブジェ、そして動的な視覚演出(ウォーターインテリア等)。これらの手法はそれぞれに特徴があり、目指す空間のコンセプトや予算、メンテナンス体制に応じて最適な組み合わせを選定することが重要です。
レストランやバー、ラウンジの内装は、カジノホテルを訪れる顧客の満足度を左右する重要な要素です。特にVIPルームやハイローラー向けの空間では、細部にまでこだわった内装デザインが求められます。世界の人気カジノホテルでは、飲食空間への投資を惜しまず、リゾート全体の魅力向上につなげています。
2030年秋頃を目標とする大阪IR開業に向けて、設計・企画段階から内装デザインを戦略的に検討することで、マカオやシンガポールと肩を並べる世界水準の空間を実現できるでしょう。関連する情報の収集や各手法の詳細については、専門会社への相談を通じて具体的な検討を進めることをおすすめします。日本のIR施設が世界から注目される存在となるために、レストラン空間のデザインは欠かせない投資領域です。




